「ヴェローナ、ヴァルポリチェッラのワイン蔵へ乱入」の巻
ベルターニ(ネグラル)のワイン蔵にて
Bertani Vitivinicoltori dal 1857, Negrar,Verona
電話の向こうで男が尋ねる。
「それで、明日は何時にこちらへ来るのかね」
「コルティナを朝8時には出るので、11時半にはそちらへ着けるだろうと思ってます」
男の名はGaetano Bertani。230km程離れたヴェローナのヴァルポリチェッラ、ネグラルにあるワイナリー、ベルターニ社の当主である。
「その時間に出たのでは、午前中にここまで辿り着けないな」
「なるべく早く行きたいのですが」
ガエターノの声が心なしか低くなったような気がした。
コルティナ〜ヴェローナ
は3時間半あれば十分とホテルで聞いたのだが、ガエターノはもう少しかかると踏んだにちがいない。
「まあ、高速に乗ったら一度電話をくれるかな」
「そうします。オーラに着いたら電話します」
明日は土曜日だ。休みの日に押しかけてくる東洋の不作法者たちに、少し腹を立てているのかなと思ったが、かといって、今更変更するわけにもいかない。
「あなたのご親切に感謝し、あなたのカンティーナを訪問できるのを楽しみにしています」
感謝の言葉を述べ受話器に向かって頭を下げていると、いつの間にか電話は切れていた。
ホテルコルティナのレストランの
ウェイターたち
コルティナ最後の晩、夜景
Cortina d'Ampezzo
黄金色に輝くトファーナが見えてくる
Tofana , Cortina , Veneto,
翌朝、迎えにきたドライバーのミケーレにどの道が一番早いか聞いてみると、ヴェネツィアへ南下しながら
ヴェローナ
へ向かっても、オーラからトレント〜ヴェローナと行ってもかかる時間は同じくらいだという。
それなら、来るときはヴェネツィアから北上して来たので、帰るときは違う道を走りたい。ドロミテ街道を朝一番でひた走る。日が高く上る前、ドロミテの山々が朝陽を浴びて輝く様を次々に眺められる。これもドロミテスキーならではの楽しみのひとつなのだ。
コルティナからパッソ・ファルツァーレゴを登り始めると、右手のトファーナが黄金色の岩肌をまばゆいばかりに輝かせ、木々の間からその全容を露わにしてくる。峠を更に進んでいくと、ラガッツオーイの切り立つ岩壁が炎のような光を放つている。
コルティナ〜パッソ・ファルツァーレゴ(2109m)〜アラッバ
とくねるカーブの連続する山道で、2台目のクルマのミラーが降雪量を示すポールに当たり吹っ飛んでしまった。
二つ目の峠
パッソ・ポルドイ
(2239m)はドロミテ街道で標高が最も高い。セッラ山群は常に眼前にあり、進むほどに違う角度からその姿を眺められる。このポルドイ峠のカーブをひとつひとつクリアーしていけばカナツェイに到着する。
コルティナ
からここまで37.2km。カナツェイからオーラまで63km。高速に乗るまで100kmの道のりである。
カナツェイから暫くマルチャロンガのコースに沿って走る。マルチャロンガは距離70kmのクロスカントリーレースで、ドロミテのヴァル・ディ・フィエンメと、ヴァル・ディ・ファッサの二大渓谷を舞台に、毎年一月に開催される。
既に設営が始まっているらしくクルマが走る直ぐ脇を、林を通り原野を抜け見え隠れしながら白いコースが延々と続く。カヴァレーゼの町を通り過ぎて、オーラから高速道路=A22に入っていけば、ヴェローナまであと130kmだ。
ドロミテの山並みと、アルプスの嶺々の狭間をアディジェ川が流れ、リンゴ、サクランボ、ブドウの畑が行けども行けども続いている。
トレンティーノ・アルトアディジェ州
も
ヴェネト州
に勝るとも劣らない一大ワイン生産地帯なのであった。
トファーナ
ベルターニ社のヴィッラ
Villa Novare, Bertani
ベルターニ、ワイン蔵の中庭
ベルターニ、博物館
土曜日の渋滞を全く計算に入れてなかった一行は、12時半を大きく回って漸くベルターニのヴィッラに滑り込んだのだった。それでも、ガエターノはイヤな顔ひとつせずに我々を迎え入れ、早速、姪のエマヌエーラとエノーロゴ(醸造管理責任者)のエミリアーノを紹介し、二人にワイン蔵の案内を指示するのだった。
ヴァルポリチェッラの中でもベルターニ社の創業は古く1857年に遡るという。二人に案内され醸造の行程を解説して貰いながら、蔵の中を見て回ると、先祖代々ワイン造りに打ち込んできたことがよく分かる。当代とって第三代目となるガエターノは創設者の曾祖父の名前をそのまま継いで家業を継いだという。
感じのいい姪エマヌエーラはワイン蔵から、創業以来の樽や、現役を引退した樽が保存されている博物館にも案内してくれた。こんなところにも先祖の苦労を偲び、誇りに思う一族の気持が表れているかのようだった。
秋に収穫したたブドウはヴァルポリチェッラ特有のアパッシートという手法を用いて乾燥させる。簾状のヨシズ張りを棚板にして、その上にブドウを載せ自然乾燥させながら水分を飛ばし、糖度を高めるのだ。
その後、3ヶ月間程経ったらいよいよワインの仕込みが始まる。探索隊一行が訪れた1月12日は年明け早々、糖度の高まったブドウをタンクに移して発酵の行程に入った直後なのであった。
そのベルターニで、今回テイスティングに準備されていたのは、
●Le Lave Indicazione Geografica Tipica 99=レ・ラーヴェ99年、白。
●Villa Novare Ogni Santi DOC 98=ヴィッラ・ノヴァーレ・オニ・サンティ98年赤。
赤ワイン一種と白ワイン一種であった。
エノーロゴのエミリアーノが、それぞれのワインの生い立ちを語り、ワインの個性について淡々と感想を述べていく。その言葉には生産者としての自信が溢れ、静かな語り口はあたかも醸造学の講義を聴いているかのようであった。
ヴァルポリチェッラのワイン造りは、コルヴィーナヴェロネーゼ種のブドウが40〜70%、ロンディネッラ種が20〜40%、それにモリナーラ種5〜25%を配合して醸造する。エミリアーノが熱心に説明しているのに、隊員たちは早くもワインの摂取に全面集中しているようなのだった。
テースティングのあと、楓山はワイン蔵の片隅で木箱に入って、ひっそりと眠っていた年代物アマローネの詰め合わせを買い占めた。その横で、大貫さおりが小さく叫んだ。
「あー、わたしの生まれた年のアマローネ!
これ、一本だけ特別に分けて欲し〜い」
「シニョリーナ、それ一本だけは、困るなあ」
「遠い日本からきたシニョリーナの誕生年だ。特別に分けてあげなさい」
ガエターノの太っ腹なお言葉で、大貫さおりは詰め合わせセットの中から一本だけ、誕生年のアマローネを獲得!思わず全員が、いいなあ、イタリア。好きだなあ、イタリアと唱和してしまうのであった。
ベルターニ社のヴィッラ
Bertani Villa Novare
お待ちかね、テースティング
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