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「ドロミテ通の隠れ宿マドンナディカンピリオ」の巻、その2

 初めて行く場所で知らない相手に会うのは、誰でも少しばかり不安なものだが、毎年違うところへ出かけ、見知らぬ人たちに助けられながら探索する身としては、口には出さねど強力な助っ人に出会えるよう心中秘かに祈る気持でいる。いい先導が付いてくれれば、探索は半分成功したようなもので、あとは一番後ろをのんびり滑りつつ写真撮ったり景色眺めたりしているだけでよくなるからでもある。

 マドンナ探索のときは出発前に女性のガイドを頼んでおいたので、もしかするとフォルガリダのモニカのような心優しい美人のマエストラが来てくれるかもしれない。ミラノからマドンナのホテルスピナーレへ到着したのは夜の10時半頃だったが、ドアを開けて中へ入るとなにやら賑やかな音楽が響きわたり一行の到着を歓迎してくれるようであった。
「このホテルはなかなかいい」
「ホントですね。明るいしきれいですね」
「華やいで、雰囲気がいいですよね」

 イタリアアルプスやドロミテ探索に参加して数多の宿に泊まってきた隊員たちは、一瞬にしてそのホテル全体の質とサービスの内容を見抜いてしまうようになる。そしてその直感はたいてい間違っていない。

 フロントで聞いてみるとその晩はで大きなパーティーが開かれていたらしく、二階の会場で演奏される音楽がロビーやフロントに溢れ出してくるのだった。隊員たちは長いフライトと車の移動に疲れ切っているはずなのに、階上からのひときわ楽しげな生演奏にいち早く元気を回復してくるのだった。

 それでもさすがにいきなりパーティーに飛び入りというわけにもいかないので、無事到着したことを祝い軽く乾杯してひたすら眠る。翌朝8時半にはマドンナのガイドがやってくるのだ。

 若くて美人で溌剌としたシニョリーナがやって来ると思っていたので、ジョルジョがマエストロ・ディ・シー(スキー教師)のユニフォームで翌朝ロビーに現れたとき、彼が探索隊のガイドのために来たのだとは誰も思わなかった。

 ジョルジョはジョルジョでアラブ人の金持ちグループがスキーにやってくるのだと思っていたらしい。というのも、彼がスクールから受けた指示には、ホテルへ行ってGRUPPO BABA(ババ・グループ)にミートして一日ガイドをするとだけ書いてあって、どこの国からやって来るなんてことは書いてなかったからである。ジョルジョはALI BABAを連想して「アリババと40人の盗賊」に出てくるような大男のアラブ人の一団とスキーするのかと気が重かったそうだ。

 ところが、それらしき大男グループの姿は見えないし、そのうち下りてくるだろうと待っていたら、変なイタリア語で話しかけくる山椒のように小粒なジャポネーゼが自分のアシストするグループだと分かったのであった。でもまあ、初めよければ終わりよしということで、出会いに笑ってうち解けてしまったので、あとはずっとそのままうまくいきそうで、それはそれでよかったようなのだ。


 ホテルスピナーレでは朝食の時からスプマンテが用意してある。スプマンテはめでたい時の祝い酒で、よろず乾杯のときはスプマンテと決まっている。イタリアでも朝からスプマンテを振る舞ってくれるということは滅多にないので、うかつにも何日かしてから気が付いたのだ。それも楓山一登が朝から一杯やったおかげである。
「いやあ、あそこにスプマンテがあるんでね」
「はあ、朝からですか」
「そ、ちょっと一杯と思って言ってみたら、未だあいてないのを開けてくれてねぇ」
「ホントですかぁ。しかも、ノーチャージ?」
「エーっ。もっと早く気づけばよかったですね」
「はいや、それにしてもめでたい、めでたい」
ということで、それからは毎朝スプマンテを開けて貰い好天を祝って乾杯、前途の無事を祈っては乾杯ということになったのであった。

 こういう嬉しいホテルがマドンナにはあるのです。ミラネーゼたちがひいきにする隠れ里というのも分かるよーな気がする。食事もサービスも一級だが値段もそれなりに高いので、日本のパックツアーなんかではおいそれと使えるようなホテルではないが、どうせ行くなら少々奮発して、たまにはこーいうところでゆったり過ごしてみるのもいいのではないだろうか。

 イタリアではスキーを存分に楽しめるのと同時に、食い物が美味いのでゲレンデの食事さえ楽しみとなってしまう。行く先々にこれでもかと待ち受けるお楽しみレストラン。探索中は取材もかねているので、どんなにおいしくても同じところで食事することは殆どないのだが、それでも時には例外がある。

 マドンナでジョルジョが連れて行ってくれたプラダラーゴのピステ、1767m地点にあるリストランテ・カッシーナ・ゼレードリアがそれである。こってりチーズだの肉だのに「まいったなあ」状態の人には特にいい。探索隊が滞在中二度も通ってしまったくらい「石焼きレストランゼレードリア」は絶賞ものであった。

 マドンナから遠望できるトナーレで開催されたレース、ジガンティッシモに参加したイタリアスキークラブチームも、マドンナまでわざわざ食べに行ったらしく、SJ先月号のレポートで絶賛していた。皆さんもマドンナに行ったら一度寄って肉や野菜やチーズの石焼きを試してみんさい。絶対のおすすめじゃけんね。


 ジョルジョの長身雪焼け真っ黒顔は、最初は恐そうだったが、破顔一笑、人のよさそうな童顔となってしまい、職業とはいえ実に面倒見がいい。彼に限らず、総じて人当たりがいいからイタリアーノは客商売向きなのかもしれない。ドロミテやアオスタなどの山岳地帯は実に素朴な人間が多く、何度行っても未だかってイヤな思い出がひとつもない。

 滑りに滑って爽快な気分でマドンナの空を見上げながらリフトに乗っていると、二つ前のリフトに楓山と乗ったジョルジョがなにやら楽しげに身体を揺すり手拍子を打っている。「おーお、子供みたいにはしゃいでリフトが揺れてるなぁ。まあ」と思っていると、二人はなにか歌っているようである。「あれま、うた、歌ってんのか」と耳を澄ませば、楓山が歌う「北国の春」が風に乗り聞こえてくるのだった。

 後で確かめると、何か日本の歌を歌ってくれとジョルジョがせがむので、それではと千昌夫を歌っていたそうである。いかにもアジア的なメロディーなのに、ドロミテブレンタの山並みにも違和感がないのは不思議な気がした。

 ジョルジョに歌詞の意味は分かるべくもないのだが、大きな手にはめたでっかいグローブをばんばんと打ち合わせ、ジョルジョが唸り楓山が歌うデュエット「北国の春」が、マドンナディカンピリオの澄んだ青い空へたなびくように流れていくのだった。




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